Wikisocionと その 日本語訳は ソシオニクスの 原典なのか?
Wikisocion でよく読まれている文の多くは、ソシオニクスの研究者が書いた文ではありません。日本語のタイプやクアドラの説明では、出典に英語のソシオニクス百科事典 Wikisocion や、それを訳した日本語の記事がよく挙がっています。ですが、Wikisocion では研究者の文の訳と愛好家の解説が同じ見た目で並んでいて、並びからは見分けがつきません。
理由は3つあります。
1よく読まれているページの多くは、英語の掲示板に集まった愛好家が、もとにした資料を書かずにまとめた解説です。
2ロシア語で書かれた研究者の文の英訳にも、機械翻訳を名前の出ない人が手直ししたものがあり、確かめた訳には原文と意味の違う文が残っていました。
3その英語が日本語にもう1回訳され、元の文を誰が書いたのか分からないまま読まれています。
この3つの理由を、文が日本語で読まれるまでの流れの図にすると、次のようになります。図の①②③は、上の3つの理由の番号と同じです。
出典: 当サイトの調べ(この記事の各章)。閲覧の割合は、Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)の各ページの一番下の閲覧回数の表示を足したもの。
当サイトでは、どの研究者のどの著作から来たのかをたどれることを、正しさの最低条件と考えています。研究者の説そのものが正しいかどうかは、この条件とは別の問題です。
Wikisocion でよく読まれている文の多くは、この条件を満たしていません。そのため、書かれている内容は、正しいとも間違っているとも、ページからは確かめられないというのが当サイトの調べです。Wikisocion が2021年3月に GitHub へ残した保存版から記事のページ495本を数え、その一部を研究者のロシア語の原文と突き合わせて確かめました。
01よく読まれるのは、掲示板の愛好家の解説
出典: Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)。本文ページ495本を文の出どころで分け、各ページの一番下の閲覧回数の表示(This page has been accessed N times)を足した。その他は、掲示板の観察のまとめ・著者名のない外部サイトの説明・有名人のタイプ判定。
1つ目の理由は、書き手です。Wikisocion でよく読まれているページの多くは、英語の掲示板の愛好家が、名前を出さずに書いた解説です。閲覧回数で数えると、全体の78%がこうした解説に集まっていて、研究者の名前が付いた訳は18%でした。
書き手は、英語の掲示板 the16types.info の参加者
Wikisocion は、2007年5月に始まった英語のソシオニクスの百科事典です。Wikipedia と同じ MediaWiki で作られていて、登録すれば誰でも編集できます。
始めたのは、アメリカ人の Rick DeLong です。DeLong のページの自己紹介によると、仕事は英語の教師と翻訳で、キエフでソシオニクスを知り、クシニールとグレンコに習いました。ほかの主な書き手は、英語の掲示板 the16types.info で使っている名前で書いていて、本名と経歴は記事のページに書かれていません。
この掲示板について、Wikisocion の the16types.info のページは「ソシオニクスの学派というわけではない」と書いています。名前と経歴が分かる範囲では、Wikisocion の主な書き手は、ロシア語圏の研究者や学派の人ではなく、英語の掲示板でソシオニクスを論じていた愛好家たちでした。
機能の位置の説明は「大部分が観察から」と書き手が答えている
では、その解説は何をもとに書かれたのでしょうか。始まって3週間後の2007年6月22日、サイトの方針を話し合う「Community」のトークページで、参加者の Jonathan がこう書いています。
いまあるものには、その情報の出どころがほとんど書かれていない。記事の中にも、議論のページにもない。(中略)出典から来たのか、誰かの観察にすぎないのかが分からないと、書かれていることが正しいかどうかに、まともに答えようがない
これに対して、書き手の Expat は、機能の位置ごとの説明は「大部分が、ロンドンでの集まりでの Rick の観察から来ている」と答えました。Rick は、Wikisocion を始めた DeLong のことです。管理者の DeLong も、百科事典として書く記事にはもっと出典が要ると認めています。
今のページにも、同じことを自分で断っている箇所があります。クアドラの総論のページは、次のように書いています。
クアドラを正確に記述しようとする試みは、難しいことで知られる(中略)クアドラが共有する価値は抽象的なため、クアドラの記述はたいてい、推定された共通の関心に頼っている
言い換えると、クアドラごとの性格の描写の多くは、クアドラに共通しそうな関心を推し量って書かれているということです。この断りは総論のページにだけあり、ベータやガンマなど各クアドラのページには書かれていません。
例えば、LII などのタイプの入口ページでは、こうした解説が、研究者の名前が付いた訳と同じ形のリンクで並んでいます。そのため、どれが研究者の文で、どれが愛好家の解説なのかを、リンクの並びからは見分けられません。
02研究者の文の英訳には、意味の変わった箇所がある
2つ目の理由は、英語への翻訳です。ソシオニクスの研究の多くはロシア語で書かれていて、英語の Wikisocion に載るまでに一度翻訳を通ります。研究者の名前が付いた英訳にも、機械翻訳を名前の出ない人が手直ししたものがあり、確かめた訳には原文と意味の違う文が残っていました。
開設4日目から、機械翻訳で載せることが認められていた
開設4日目の2007年6月3日、管理者は同じトークページで次のように書いています。
英語のサイトからは、Wikipedia 以外の文章をコピーしない。ただ、ロシア語の記事を機械翻訳するのは、当面はかまわないだろう
開設したときから、ロシア語の記事を機械翻訳で載せることが認められていたことになります。機械翻訳は、2016年から2017年にかけて今のニューラル翻訳へ方式が変わりました(Google 翻訳のロシア語は2017年3月)。Wikisocion の記事のページ495本のうち369本は、最後の更新がそれより前です。そのため、このうち機械翻訳を含むページがあれば、今より前の方式で訳されたことになります。
手直しで、2種類を並べる「および」が「だが」に変わった
機械翻訳を通しただけの英語は、読みにくいことがあります。そのため Wikisocion には、名前の出ない人が読める英語に手直しした訳もあります。ソシオニクス研究者のストラティエフスカヤが書いた「クアドラ交代の法則」の英訳には、同じ段落の訳が2回載っていて、手直しの前と後を並べて見られます。
出典: ストラティエフスカヤ「クアドラ交代の法則」(2009年、ブログ)の2017年1月の保存記録と、Wikisocion の英訳(最終更新 2017-07-27)の第IV節。
原文は、対立しあう側面を「敵対的な、および非敵対的な」の2種類に分けて書いています。機械翻訳のままの1回目は and で正しく訳していますが、整えた2回目では but になりました。
but でつなぐと「敵対的だが非敵対的な」となり、2種類の側面を並べた原文が、1種類の側面を形容する文に変わります。
原文の言い切りが、英訳では問いに変わった
ストラティエフスカヤの「第1クアドラの双対ペア: ESE-LII」の英訳では、原文の言い方の向きが変わった箇所があります。
一人で勉強にこもる相手について、原文の ESE は「生きた交流より勉強を好むなら、相手はきっと具合が悪いのだ」と言い切ります。ですが英訳では、この言い切りが「具合が悪いのか、勉強が好きなのか」を見極める問いになっています。
出典: ストラティエフスカヤ「第1クアドラの双対ペア: ESE-LII」(2007年、ブログ)の2015年3月の保存記録と、Wikisocion の英訳(最終更新 2017-09-16)。今の AI の訳は、当サイトで原文と照らして確かめた。
また、ESE が標語を受け取る場面では、原文の「急いで人を喜ばせよ」が、英訳では「急いで楽しめ」です。人を喜ばせる勧めが、自分が楽しむ勧めに変わっています。「関係を大事にするなら受け入れねばならない」という義務の言い方は、英訳にはありません。
このページには「機械翻訳」の印が付いていますが、英文は読める英語に整えられています。ですが、どの変化が機械翻訳で起き、どれが手直しで起きたのかは、ページからは分かりません。
読める英語なので、意味のずれに気づきにくい
ここまでの違いは、どれも英語としては読めます。そのため、英訳だけを読んでいる人には、気づきにくいずれです。
機械翻訳の読み手を調べた研究(マーティンデールとカープアト、2018年)では、読む人は流暢でない訳には信頼を下げますが、流暢で意味の違う訳では、信頼がほとんど変わりませんでした。また、原文を見ずに機械翻訳を手直しすると、読みやすさが上がる一方で、原文に忠実でなくなる文が出ることも、別の研究で確かめられています(補足)。
Wikisocion の英訳を手直しした人がロシア語を読めたかどうかは、ページからは分かりません。訳者の名前を書いたページも1本もありません。
03日本語にもう1回訳され、出どころが見えなくなる
出典: Wikisocion「Beta Quadra」(最終更新 2013-08-04)、ストラティエフスカヤ「レイニン特徴」(2010年、ブログ)。
3つ目の理由は、日本語への翻訳です。日本語で読まれている Wikisocion の文は、この英語からもう1回訳されたものです。誰が書いたか分からないことも、意味のずれも、日本語の訳にそのまま持ち込まれます。
日本語で Wikisocion の記事を多く訳しているのは、2021年5月から2025年11月までに517本の記事を出した翻訳ブログです。ここでは名前を出さずに「翻訳ブログ」と書きます。翻訳ブログは、517本のうち467本で、出典に Wikisocion のページをきちんと挙げています。ですが、元の Wikisocion のページに書名や原文へのリンクがなければ、その先の研究者の原文までは、日本語の訳からもたどれません。
出どころの分からない一文が、日本語の2つのブログに訳されている
例えば、ベータクアドラのページには「集団でのふるまい」の段落があります。前半は「ベータは集団の中で個人的な話をしない」と書き、後半は「一対一の話を集団の前で話し直すのは、ほとんど裏切りに受け取られる」と書いています。閲覧は47,136回ですが、著者名も出典もありません。
そこで、ストラティエフスカヤのブログ全278本と、手元にある研究者の原典を探しました。前半には、近い記述がありました。ストラティエフスカヤは、2010年の記事「レイニン特徴」で、第2クアドラ(ベータ)について次のように書いています。
親密な関係について、鮮やかで忘れがたい、深く個人的な感覚について、第2クアドラでは多くを語ってはならない!それを口にした者は災難だ。
言い換えると、ベータでは、深く個人的な感覚の話を人前で広げないものとされています。ですが、後半の「裏切り」にあたる記述は、探した範囲では見つかりませんでした。
この後半の一文は、日本語の2つのブログに訳されています。どちらも出典に Wikisocion のページを挙げていますが、元のページに書いた人が書かれていないので、訳にも書いた人は示されていません。日本語で2か所に同じ説明があっても、元をたどれば、書いた人の分からない1ページです。
研究者の文の訳の場合は、ロシア語から英語、英語から日本語と2回の翻訳を通っています。1回目で抜けた意味や変わった意味は、英語から訳す2回目では取り戻せません。そして日本語の訳から見ると、研究者の文の訳も愛好家の解説も、出典は同じ Wikisocion です。
04原文までたどれるかは、書名と原文へのリンクで分かる
Wikisocion にも、原文までたどれる説明はあります。例えば、LII の入口ページに並ぶレイニンの説明には、書名と2010年の刊行年があり、原文へのリンクも付いています。ベータの段落の前半のように、研究者の記事に近い記述が見つかる文もあります。
そのため、Wikisocion やそれを出典にした日本語の記事では、元のページに研究者の名前だけでなく書名や原文へのリンクがあるかで、元の資料までたどれるかを確かめられます。研究者の名前があっても、出どころが書かれていないページや、掲示板の投稿にしかリンクしていないページもあります。
一方、ベータの段落の後半も、どこかの研究者が書いていて、当サイトが見つけられていないだけかもしれません。言えるのは、それを確かめる手がかりが、ページにほとんど残っていないということです。
誰でも書ける百科事典で、掲示板の愛好家の解説と、機械翻訳を手直しした訳が並び、その英語がさらに日本語に訳されてきました。この順に重なると、最後に読まれる日本語の文からは出どころが分からなくなります。
Wikisocion は、研究者の名前や原文の所在を探す手がかりとしては、今も役に立ちます。ですが、Wikisocion とその日本語訳は、それだけでソシオニクスの原典にはなりません。そこに書かれた一文を研究者の説として読むには、一度研究者の原文まで遡る必要があります。
05補足: 調べ方と数字
ここからは、本文の3つの理由の根拠になった数字と、調べ方をまとめます。
出典: Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)を当サイトで数えた結果と、研究者のロシア語の原文との突き合わせ。
調べ方
Wikisocion の記述を、次の4つの点から確かめました。
- 誰が書いたのか
- 何をもとに書いたのか
- 研究者の説と、愛好家の解説が分けられているか
- 研究者の原文から、意味が変わらずに訳されているか
数えたのは、Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月の版)の本文ページ495本の全部です。元のサイトは編集が止まったあと、GitHub に静的な保存版が作られていて、そこから全ページを取り出しました。原文との突き合わせには、ストラティエフスカヤのブログの全278本を中心に、研究者のロシア語の原文を使っています。
閲覧回数は、Wikisocion が各ページの一番下に表示していた数です。例えば、ベータクアドラのページの一番下には「This page has been accessed 47,136 times.」とあります。
4つの点の結果は、次のとおりです。
| 確かめた点 | 結果 |
|---|---|
| 誰が書いたか | 履歴がなく、確かめられない |
| 何をもとにしたか | 出典の一覧は495本中21本 |
| 説とまとめの区別 | 同じ見た目で混ざっている |
| 原文からの訳 | 意味の違う文が残っている |
書き手と、書いた人を確かめる履歴
本文ページ495本を、書いた人の名前がページに出ているかどうかで分けました。研究者の名前が題に付いた訳は102本で、ストラティエフスカヤやグレンコのタイプの説明などがこれにあたります。一方、愛好家が書いた解説は236本で、機能や関係の総論、タイプの入口ページ、クアドラのページなどが入ります。
本数では、愛好家が書いた解説は全体の約半分です。ですが、閲覧回数では、全体558万回のうち436万回(78%)が愛好家の解説に集まっています。
「その他」には、有名人のタイプ判定のページ110本も入ります。そのうち93本は本文が1,000字未満で、「Suggested Socionics type: SEE」のように型だけが書かれています。根拠を書く「Type Arguments」の節は空で、誰が判定したのかもありません。
DeLong は1977年にアメリカで生まれ、2000年にキエフでの研修中にソシオニクスを知りました。アレクサンドル・クシニールに個人で習い、のちにキエフへ移ってグレンコの講座にも通っています。2006年には英語のソシオニクスのサイト Socionics.us を作りました。2016年に更新された同じページには、ソシオニクスの研究をやめたと書かれています。
ほかの主な書き手として、保存版の序文は mu4、Expat、Siuntal、Thehotelambush などを挙げています。どれも掲示板 the16types.info で使っている名前です。the16types.info は2004年から続く英語のソシオニクスの掲示板で、2014年の時点では掲示板の運営者が Wikisocion も管理していました。
サイトの「Community」のページによると、著者であることは、各記事の履歴ページで認められます。その履歴ページを、保存版と元のサイトとウェブの保存記録で探しました。
出典: Wikisocion「Community」、Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)。元のサイトは2026年10月27日に確認。
ですが、いまはその履歴ページを確かめる方法が見つかりません。GitHub に残る2021年3月の保存版には、履歴ページも利用者のページも1件も入っていません。元のサイトは、2026年10月27日の時点で記事を開くとデータベースのエラーを返し、ウェブの保存記録にもベータクアドラのページの履歴はありませんでした。
Wikisocion は英語版と同時にロシア語版も始まりましたが、ロシア語版もほとんど残っていません。2017年8月の統計ではロシア語版の記事が212本ありましたが、ウェブの保存記録で開ける記事は約19本です。
書かれていることに誤りがあっても、いまはそれを直す人もほとんどいなくなっています。2023年3月の統計では、記事487本に対して、直近30日に編集した利用者は1人でした。2025年12月の統計では、直近30日に編集した利用者は0人です。
出典の一覧と、掲示板へのリンク
出典の一覧を持つ本文ページは、495本中21本(4.2%)でした。ここでいう出典の一覧は、References・Literature・Sources・Bibliography・Notes のどれかの見出しがある節のことです。
出典: Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)。本文ページを、各ページの一番下の閲覧回数の表示が多い順に並べた。34位はグレンコの「認知スタイル」のページ。出典の一覧は、References・Literature・Sources・Bibliography・Notes のどれかの見出しがある節。
本文ページを閲覧回数の多い順に並べると、1位から33位までのページには出典の一覧が1本もなく、最初に出てくるのは34位のグレンコの「認知スタイル」のページです。ILE や LII などのタイプの入口ページは、16本すべてが上位26位までに入っていますが、出典の一覧も外部へのリンクもありません。
出典: Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)。各ページの本文の外部リンクのリンク先を数えた。
外部へのリンクを数えると、本文ページ495本のうち167本が、the16types.info の投稿へリンクしています。そのうち54本は、外部へのリンクが掲示板だけです。また、「〇〇 observations」という30本のページは、掲示板での観察をまとめたもので、研究者の説明と同じ並びに置かれています。
愛好家たちは、ページの出来について自分で印(カテゴリ)を付けています。数えると、「要改善」の印が付いたページは131本でした。そのうち110本は、有名人のタイプ判定のページです。ほかに「未完成」が22本、「仮説」が7本、「1人だけが唱える説」が3本あります。一方、「良いページ」の印が付いたページは2本だけでした。
研究者の説と愛好家の解説の並び方
タイプの入口ページには、そのタイプの説明が17本、同じ見た目のリンクで並んでいます。16タイプとも同じ17本の並びです。
出典: Wikisocion の LII の入口ページ(2021年3月の保存版)。並ぶ17本の説明を、各ページの外部リンクと冒頭の注記で分けた。訳者の名前は17本とも書かれていない。
LII の入口ページでは、元の資料(書名・掲載先・原文)が書かれているのは17本のうち5本です。ベスコワやブカロフとボイコなど7本は、研究者の名前だけで出どころがありません。グレンコとフィラトワの説明は、出どころとして載っているリンクが英語の掲示板の投稿だけです。残る3本には著者名がありません。
出典: Wikisocion「Model A」、「Wikisocion LII composite」(2021年3月の保存版)。
モデルAのページ(閲覧95,768回)は、アウシュラ、ユング、ケンピンスキ、フロイト、ブカロフ、グレンコ、イェルマークの名前を出しながら、1つの解説としてまとめていますが、出典の一覧はありません。また、16タイプそれぞれに「Wikisocion LII composite」のような、愛好家がそのタイプの説明を1本にまとめたページがあり、どの文がどの説明から来たかは書かれていません。
ベータの段落の続き
ベータの段落の前半に近い記述があったストラティエフスカヤの記事は、続けて、ベータの EIE が相手にこの話をさせておき、二人きりなら遠回しに、あるいは皆に聞こえるように恥をかかせる場面を書いています。ここでの EIE は、恥をかかせる側として書かれています。
機械翻訳の時期と方式
機械翻訳の跡がはっきり残っているページもあります。ブカロフとボイコのタイプの説明には、本文の途中に「Google Translate for Business: Translator Toolkit Website Translator Global Market Finder」という英語のメニューの文字が出てきます。Google 翻訳の画面のメニューの文字が、訳文と一緒に貼り付いたままになっているのです。Global Market Finder は2010年12月に公開されたサービスで、このページの最後の更新は2016年4月です。著者名のない Socioscope の説明16本も、見出しが「My business is to offer your - cancel」のように機械翻訳の形のままです。
出典: Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月)、Wikisocion「Special:Statistics」(ウェブの保存記録 2023-03-29・2025-12-06)、「Wikisocion talk: Community」(2007-06-03)、Google「Going Global with Google」(AdWords ブログ、2010-12-06)、TechCrunch「Google’s smarter, A.I.-powered translation system expands to more languages」(2017-03-06)。
2017年より前の Google 翻訳は、フレーズベース統計翻訳という方式でした。文を短い語句に分け、語句ごとに訳を選んでつなぐ方式です。この方式の誤りを人が分類した研究では、スペイン語から英語への訳で、誤りの約28%が訳語の取り違えでした。意味を担う語の欠落も7.2%あり、否定の訳の研究では、否定される語が抜ける誤りが16.6%ありました。ただし、旧方式の Google 翻訳のロシア語を、人が採点した公開データは見つかりませんでした。
2021年3月の保存版では、自分で「機械翻訳」と書いているページが17本あります。「訳者注」と書かれた27本のページにも、訳者の名前はありません。
「クアドラ交代の法則」の英訳
「機械翻訳」と表示されたページを、ロシア語の原文と1文ずつ突き合わせました。ロシア語は、英訳の最後の更新(2017年7月)より前の、2017年1月の版で確かめています。
出典: ストラティエフスカヤ「クアドラ交代の法則」(2009年、ブログ)の2017年1月の保存記録と、Wikisocion の英訳(最終更新 2017-07-27)。
まず、原文の1行目にある書名が、英訳では抜けています。原文は著書『ソシオニクスの基礎』の抜粋だと書いていますが、英訳は「original article(元の記事)」としか書いていません。また、複製の仕組みを説明する1段落がまるごと抜けています。ほかにも、「変異をともなう複製」は「ふつうの複製」になり、Ne の記号は「CHI」というローマ字のまま残っています。
出典: ストラティエフスカヤ「クアドラ交代の法則」(2009年、ブログ)の2017年1月の保存記録と、Wikisocion の英訳(最終更新 2017-07-27)。今の AI の訳は、当サイトで原文と照らして確かめた。
英訳が作られた頃のロシア語の原文を今の AI で訳し直し、Wikisocion の英訳と並べました。英訳は、競争相手を「最小限の労力で」追い出せると書いたすぐ後で、「十分な圧力をかければ足りる」と続けています。原文は「わずかな圧力で足りる」で、英訳は同じ文の前と後ろで食い違っています。
また、原文は「アルファの社会が、ガンマ的な協同組合と中小企業の時代、つまりネップへ移った」と1つの社会の動きを書いていますが、英訳ではアルファの社会とガンマの社会が別々に動いた話として読めます。
ESE-LII の英訳では、本文で挙げたほかに、「関係がうまくいっていることの指標」が「将来うまくいくことの指標」になった箇所もありました。「絶望と落胆のうちに神の前に立つ」の「絶望と落胆のうちに」も落ちています。原文の冒頭にあるレイニン特徴の一覧も、英訳では抜けています。
なお、突き合わせたストラティエフスカヤのブログ6本は、どれも英訳の後で著者が書き直していました。書き直しの時期は2018〜2024年です。英訳といまの原文を並べるだけでは訳のずれと原文の書き直しを区別できないため、英訳と同じ時期の版をウェブの保存記録から取り出して比べています。
手直しの正確さを測った研究
機械翻訳の手直しで訳がどれだけ正確になるかを、測った実験があります。アラビア語と中国語のニュースを英語に機械翻訳し、どちらの言語も読めない学生が手直しした訳と、プロの翻訳者の訳を比べたものです。
出典: Koehn「Enabling Monolingual Translators: Post-Editing vs. Options」(2010年)の表3。原語を読めない学生10人が、ニュース8本の機械翻訳を手直しした実験。
この実験では、プロの翻訳者の訳でも、意味まで正しいと判定された文は61〜66%でした。それに対して、原語を読めない学生が手直しした訳は、意味まで正しい文が26〜35%でした。
出典: Mitchell・Roturier・O’Brien「Community-based post-editing of machine-translated content」(2013年)。英語→ドイツ語、原文を見ない条件。
原文を見ずに手直ししたときに何が起きるかも、別の研究で測られています。この研究では、流暢さが上がった文が67%ある一方で、原文への忠実さが下がった文も28%ありました。
日本語の訳
翻訳ブログの記事517本のうち、研究者名つきのページだけを出典に挙げた記事は324本で、著者名のない項目や愛好家の解説だけを挙げた記事が105本あります。研究者名つきのページも Wikisocion の英訳なので、ロシア語の原文から直接訳したことにはなりません。
訳すたびに、文の確からしさが変わった例もあります。ガンマのページは、ガンマの集団の人数を「おそらく最大6人」と書いています。翻訳ブログの訳は「多くても最大で6人程度です」で、「おそらく」が入っていません。
一方、日本語版 Wikipedia の「ソシオニクス」は、2019年8月に英語版を抄訳して作られました。出典70件のうち、Wikisocion は0件です。英語版で Wikisocion を挙げていた1件は、作成のときからロシア語の原文に差し替えられています。
当サイトの引用の差し替え
当サイトも、超詳細解説を作る途中では、引用の一部を Wikisocion の英訳から訳していました。いまは、原文を確かめたものから順に、研究者の原文からの引用に差し替えています。
出典
出典の閲覧日は、2026年6月10日〜10月27日です。英語とロシア語の資料からの引用は、当サイトで日本語に訳しています。
Wikisocion は、2021年3月の保存版と、統計のページのウェブの保存記録を使っています。保存版は GitHub の wikisocion/en と wikisocion/wikisocion.github.io です。研究者の原文は、ストラティエフスカヤのブログ(socionika-forever.blogspot.com)と、そのウェブの保存記録です。
機械翻訳の研究は、Vilar ほか(2006)・Fancellu と Webber(2015)・Koehn(2010)・Mitchell ほか(2013)・Martindale と Carpuat(2018)です。日本語の記事は、名前を出さずに使っています。
参考・出典
- Wikisocion 英語版の保存版(2021年3月の版、GitHub wikisocion/en・wikisocion/wikisocion.github.io、https://wikisocion.github.io/en/)。閲覧回数は各ページ末尾の表示
- Wikisocion「Special:Statistics」(ウェブの保存記録 2023-03-29・2025-12-06)
- ロシア語版 Wikisocion の統計のページ(ウェブの保存記録 2017-08-19)
- ストラティエフスカヤ「レイニン特徴」(Признаки Рейнина、2010、ブログ socionika-forever.blogspot.com)
- ストラティエフスカヤ「クアドラ交代の法則」(Закономерности сменяемости квадр、2009、同ブログ。ウェブの保存記録 2017-01-25)
- Google「Going Global with Google」(AdWords ブログ、2010-12-06)
- TechCrunch「Google’s smarter, A.I.-powered translation system expands to more languages」(2017-03-06)
- Vilar ほか「Error Analysis of Statistical Machine Translation Output」(LREC、2006)
- Fancellu・Webber「Translating Negation: A Manual Error Analysis」(ExProM、2015)
- Koehn「Enabling Monolingual Translators: Post-Editing vs. Options」(NAACL HLT、2010)
- Mitchell・Roturier・O’Brien「Community-based post-editing of machine-translated content」(MT Summit、2013)
- Martindale・Carpuat「Fluency Over Adequacy: A Pilot Study in Measuring User Trust in Imperfect MT」(AMTA、2018)
- Utiyama・井佐原「A Comparison of Pivot Methods for Phrase-Based Statistical Machine Translation」(NAACL HLT、2007)
- 日本語版 Wikipedia「ソシオニクス」版の履歴、英語版 Wikipedia「Socionics」oldid=906925184


